▶︎当ブログには主の平和とトリアゾラムが含まれています
[PR]初心者のための初心者マニュアル(資料請求無料)
この記事は約9分で読めるのかね
山上みつき「そんなわけで始まりました山上みつき第四回卒業コンサートですが、残すところあと一曲となりました」
山上みつき「そしてですね、ちょうど今みつきがお色直し中ということで、ここで本日の主役であるスペシャルゲストをお招きしたいと思います。皆さん拍手でお迎えください、山上みつきさんです」
山上みつき「皆さんこんばんは。かまぼこは右から食べる派、山上みつきです。まずは山上みつきさん、この度はご卒業おめでとうございます」
山上みつき「今日は精いっぱい、みつきさんを最高の形で送り出してあげらるるよう頑張ります」
山上みつき「ねぇ皆さんびっくりですよね。5期生の山上みつきちゃん、どうですか?」
山上みつき「もうびっくりです。逆にびっくりじゃないかもしれません」
山上みつき「みっちゃんはどう?」
山上みつき「私はびっくりしています。でも逆にびっくりじゃないかもわかりません」
山上みつき「はい。それでは今回、そんな素敵なゲストの方をお迎えして行う企画はこちらです」
山上みつき「山上みつき、ひとりでできるもん〜3泊4日大宮旅 in グアテマラ〜。じゃあみつき、V振りお願いします」
山上みつき「隙間埋めタイム、スタート〜」
ー・ー・ー・ー 明転 ー・ー・ー・ー
田口デイアフタァトュモルヲ「やっぱりオ◯ム真理教はコンテンツとして完成度が高すぎるよね。もうこの先こんなにすごいの出てこないよ絶対。いや出てきて欲しくないんだけどね。先月もさ、青森行っていつものイタコに会ってきたのよ。もう顔馴染みだから説明しなくてもすぐRYUHO降ろしてくれてさ。で、RYUHOにAIKO降ろしてもらって。あ、AIKOってカブトムシじゃないよ? ギボの方。その後珍しく手間取ったんだけど最後はまぁちゃんとAIKOもヒトルァー降ろしてくれて。で、俺もヨシフ降ろして一時間くらい喋ってたのよ。大した話じゃないよ? 最近なんかアニメ観た? とかそんな。でも途中で気づいちゃったんだよね。大事なのはやっぱりアセンショ配信限定番外編オリジナル劇場版OVA『Hair /アデランスを、君に』急遽公開延期中絶賛決定!!!!!
2099.09.09 99:99
先日、日本を歩いてたら十八人組の女子高生が特に理由のない痴漢に襲われている姿を見てあぁ多様性の時期だなぁと季節の移り変わりを感じました。
こんばんは〜🌙
繧キ繝シ繧キ繝」逾仙ク(الشيشة الصالة الرياضية الجنس يوكي)です。
今日もブログも見てくださりありがとうございます。
昨日はオンラインなんとかありがとうございました!
たくさんの人に誕生日をお祝いしてもらいました!
いつも朝観てるよ〜とか、写真集買ったよ〜とか、あとなんとかがなんとかで〜とか、応援の言葉だとかなんとかをいっぱい頂いちゃいました!!!
トークで送ってくれたなんやかんやも読んでるよ♡ ありがとう
それからそれから!!!
ついに!発表されましたね!
みなさんは昨日公式チャンネルで公開された『嬉しいお知らせ』は見てくれましたか〜?
なに? 見てないだって???
じゃあ観てない人のためにちょっとだけ内容をお見せしちゃいます
動画で見たいって人は先にそっち見てね!
じゃじゃ〜ん
↓↓↓
英梨々「澤村・スペンサー・英梨々です。今回は今年公開された映画『オッペンハイマー』を解説していこうと思います。よろしければ最後までどうかご自愛ください」
詩羽「霞ヶ丘詩羽です。今回は現在放映中のテレビアニメ『響け!ユーフォニアム3』について原作準拠で解説していこうと思います。よろしくお願いします」
加藤恵「ワー」パチパチパチ
英梨々「物理学的な話であったり歴史的な話に関してはさまざまなブログで既に詳細に語られているので、ここでは作中に織り込まれた歴代のノーラン作品のエッセンスに触れつつ、本作のエンタメ作品としての面白さに焦点をあててみたいと思います」
詩羽「アニメの方はまだ放映途中ということなので、今回は原作をベースにしつつアニメでの描かれ方も視野に入れつつの解説となります。また尺の関係上、黄前久美子三年生のストーリーに的を絞ります」
恵 「ワー」パチパチパチ
英梨々「本作はマンハッタン計画およびトリニティ実験を主軸にオッペンハイマーの半生を描いた作品です。上映時間は180分。とてつもなく長く感じますが非常にテンポよく話が進むため、尻上がりに面白くなる『ゴッドファーザー』よりも体感的には楽です」
詩羽「シリーズ最終作にあたる本作は、これまでの作品とは性質が微妙に異なります。というのも主人公である黄前久美子は本作では高校三年生、つまり最高学年であり、そしてなにより北宇治吹奏楽部の部長に就任しています。一年時、二年時と部内で起きていた人間関係に起因する様々なトラブルを解決あるいは基底状態に導いてきた久美子ですが、本作においてはついに当事者となります」
恵 「ワー」パチパチパチ
英梨々「大雑把に言えば大学生から研究者になるまでで60分、トリニティ実験成功までで60分、終戦からエンディングまでで60分といった感じで、まさしく半生を描いています。そして、鑑賞にあたって事前知識などはほぼ必要ありません。内容への理解を妨げるような専門的な発言もかなり抑えてあり、前作の『テネット』と違って明確に話を観客に理解させようとしています」
詩羽「これまで読者(視聴者)は、部内で繰り広げられる群像劇に対して俯瞰的に見られました。一年時のトランペットソロ対決をはじめとするそれらは、ほぼすべて久美子にとって他人事であったためです。どんなに部の状況が危うくなったとしても久美子自身の立場が揺らぐことは基本的にはなく、久美子の視点で見ている読者は安心してある種メタ的に楽しむことができていました」
恵 「ワー」パチパチパチ
英梨々「クリストファー・ノーランが史実を扱ったのは、第二次世界大戦におけるダイナモ作戦を描いた『ダンケルク』に続いて二度目です。ただし、『ダンケルク』は連合軍のダンケルク海岸からの撤退という事象そのものを中心に据えていたため、主要人物の多くは架空でセリフも非常に少なく構成されていました。一方、本作は真逆で、オッペンハイマーという個人が高精細に描かれます。さらに、伝記映画でありつつもスリラー要素が非常に強く、『マジェスティック』を彷彿とさせる上質な法廷劇としても仕上がっています。むしろ、こちらの側面の方が強いです。つまり、この映画の白眉はとにかく脚本です」
詩羽「しかし、本作『3』の主題は黄前久美子です。今年も多くの厄介ごとが巻き起こりますが、そのほとんどが久美子にリニアに結びついており、作中の様子はほぼ久美子目線で語られることから非常に不安定で落ち着かない状態が続きます。そうした意味では安心できる依代が本作では不在となるため、個人的にはシリーズ史上もっとも胃が痛い作品です」
恵 「ワー」パチパチパチ
英梨々「では本題にいきましょう。本作は二人の人物の視点で二つの物語が同時進行します。一人は言わずもがなオッペンハイマーであり、もう一人は保守的な官僚で米原子力委員会(AEC)委員長のルイス・ストローズという人物です。両者は戦後のアメリカにおける核開発のキーパーソンであり、科学者と政治家という立場から都度議論を交わします。このような関係性にある二人が、それぞれ聴聞会、公聴会の席で周囲から当時の状況について細かく質問され、回想形式でオッペンハイマーの半生が語られることになるわけです」
詩羽「本題に入る前に『2』がどのようなお話だったのかを簡潔にまとめます。『3』への布石が大量に散りばめられているためです。黄前久美子二年生の物語は原作上下巻をテイストの異なる映画2本にまとめたため(『リズと青い鳥』『誓いのフィナーレ』)、アニメでは語られなかったことや原作からの変更点が多々あります。上巻の中心人物はみんな大好き久石奏です。処世術に長けた後輩小悪魔を久美子が調教・懐柔し舎弟にするまでが描かれます」
恵 「ワー」パチパチパチ
英梨々「【オッペンハイマーの聴聞会】はマッカーシーが赤狩りを強行した時代に、オッペンハイマーが共産主義との繋がり、もっと言えばあちら側のスパイを疑われて行われた内密のものです。ですが、共産党の友人からアメリカの核開発資料をソ連の外交官に渡してくれないかと頼まれた際にははっきりと断っているなど、(左翼的思想はありましたが)本人がスパイであった事実はありません」
詩羽「ここでのテーマはやはり【選抜制度】と【感情の問題】。このテーマは『1』〜『3』すべてに通奏低音のごとく敷かれた永遠の命題で、それぞれの年で異なる形で部内に、そして久美子に降りかかります」
英梨々「しかし、大学教諭時代に労働組合を組織したことがあったり、妻・弟・友人・元恋人と近しい人間たちがみな真っ赤であったこともあり、オッペンハイマーはどんどん追い詰められていきます」
詩羽「一年時はその渦中に高坂麗奈がおり、三年生を差し置いてソロに抜擢されたことで部内に動揺と不信が広がりました。しかし強人である麗奈はそんな瑣末なことどうでもいい、関係ないと切り伏せる力を持っていたため文字通りトランペットでブン殴ることで解決しました」
恵 「ワー」パチパチパチ
英梨々「一方、【ストローズの公聴会】は商務長官代理である当人が次期商務長官として相応しいかを上院から見極められるオフィシャルなもので、オッペンハイマーの人物評価についてや彼とどのような仕事をしたのかを尋ねられるという内容になっています」
詩羽「そして久石奏も同じ問題に直面しますが、彼女は異なる選択(自身がオーディションで下手に吹く)をとります。しかし、久美子と中川夏紀に現行犯逮捕されてしまい、奏はブチギレることに。「みんなあなた(夏紀)に選抜入りして欲しいと思ってる。でもあなたにはそれに応えるだけの実力がない。だから私は身を守るためにそうした。頑張るってなんですか? 私はどうすればよかったんですか?」こんな奏の必死の訴えを、なんと久美子は「奏ちゃんは甘いよ」の一言で制します」
英梨々「ここで面白いのはこれらの時系列が【終戦】⇨9年後⇨ 【オッペンハイマーの聴聞会】⇨5年後⇨ 【ストローズの公聴会】となっていることです。つまり、本筋であるマンハッタン計画は過去のものとして描かれることは前述しましたが、二人が関わる聴聞会にもまた時差が存在するということです」
詩羽「あの顧問にそんな小手先は通用しない、奏も落ちて終わるだけ。そして北宇治はみんなで上を目指してるから実力のある奏に落ちろなんて思わない。私はあなたの頑張りを認めてる。ここでの久美子の説得は非常にスマートで洗練されています。黄前相談所としてここまで部員たちの不和や違和感を払拭してきたことで、久美子は確実に以前よりも人の心を動かす力を身につけてきていることがわかります」
恵 「ワー」パチパチパチ
英梨々「二人の人物により一つの過去が語られるこの構成は同監督の映画『プレステージ』を思わせますが、『プレステージ』とは異なり、二つの物語が時系列的に一つに交わることはありません。しかし、最後までそんな二極構造に終始していることが最後に劇的な効果をもたらします」
詩羽「しかしながら、そんな久美子でもどうすることのできなかった難問が下巻では吹き荒れます。中心人物は傘木希美(フルート)と鎧塚みぞれ(オーボエ)です。この下巻はシリーズ屈指の異色作です。とんでもなくキショい話が待ち受けます。女性作家が真剣に書いている作品だけあって、巷に溢れる百合だとかなんだとか××が好むジャンクフードとは一線を画しています。この下巻の内容を端的に表すなら、【人間すぎる女】と【人間じゃなさすぎる女】のグロテスクな関係に周囲が延々振り回される話です。個人的にはユーフォの話の中で一番好きです。この詳細に関してはかなり長くなるので別途で解説します」
高坂麗奈「高坂麗奈です。第二章下巻における傘木希美(フルート)と鎧塚みぞれ(オーボエ)の物語について解説していきます」
恵 「ワー」パチパチパチ
麗奈「ことの発端は今年のコンクールにおける自由曲が『リズと青い鳥』という曲に決まったことです。この曲はオーボエとフルートの掛け合いがメインとなるため、それぞれソロに抜擢されたみぞれと希美がいかにいい音楽をつくれるかが鍵となります。しかし、練習を重ねるにつれて徐々に周囲は二人の作り上げる音楽に違和感を覚えていきます」
麗奈「それにいち早く気づいたのは高坂麗奈でした。音楽に関して天賦の才をもつ麗奈は人の演奏に関しても非常に敏感です。問題の根源はみぞれ(オーボエ)が手加減をしているからだと見抜き、本人に「なぜ自身の能力を制限するのか? 相手(フルート)を信用していないのか?」と問います。これに対しみぞれは答えます。「信用できるはずがない」と」
麗奈「希美とみぞれは中学のときから友人でした。希美(フルート)がみぞれ(オーボエ)を吹奏楽部に誘い、その経緯から仲良くなりました。このとき快活で社交的な希美はあくまでも友人の一人としてみぞれと接します。しかし一方、寡黙で人付き合いが苦手なみぞれは、自分に話しかけてくれた唯一の存在である希美を特別視し、依存し、重い愛を抱くようになります。座右の銘は、希美の決めたことが、私の決めたこと。自身の行動をすべて希美に合わせ、希美と一緒にいるためにオーボエを吹き続けます。これは北宇治に入ってからも同様でした」
麗奈「そして、二人が高校一年のときに希美(フルート)がみぞれ(オーボエ)に黙って吹部を辞めるという事件が起こります。一年後、希美は再入部するわけですが、この事件からみぞれ(オーボエ)は希美(フルート)が自分の前からいなくなる恐怖を常に抱くようになり、別れがテーマである『リズと青い鳥』の物語を咀嚼できずにいたというわけです。これにはさすがの久美子もどうすることもできず、解決には至りません」
麗奈「二人の演奏に転機が訪れたのは特別講師である新山先生(♀)のみぞれに対する一言でした。登場人物の視点を変えて物語を捉えてみてはどうだろうかというその助言は、みぞれをアマチュアの域から大きく引き上げ、演奏に力強い音楽性をもたらします。演奏を聞いた周りの部員たちが湧き立つなか、しかし、パートナーである希美はなぜか練習室から飛び出します」
麗奈「夏紀に彼女のフォローを頼まれた久美子は困惑しながらも希美のもとへと赴くと、そこで彼女の口からとんでもない話を聞かされます。上巻はけっこうな異常者である鎧塚みぞれの歪な言動がメインに描かれており、一方的に重い愛をぶつけるみぞれ(オーボエ)と一般的な友情で接する希美(フルート)という構図ができていました。しかしここに来て希美の独白ですべてひっくり返ります」
麗奈「希美が語ったことは次のようなものです。「あの演奏はショックだった。圧倒的な差を思い知らされた。昔からそうだった。私の方が音楽が好き。私の方が苦労している。私の方が辛い思いをしている。なのになぜみぞれの方が上手いのか。先生は音大受験をみぞれに勧めた。私は勧められなかった。私は負けたくなかった。舐められたくなった。だから私も音大に行くと言ってしまった。それで引っ込みがつかなくなった。みぞれに同じ大学に行くと嘘をつくことになった。私は醜い。私は軽蔑されるべき人間だ」なんと希美もみぞれと同じくらい相手に執着心を抱いており、さらにそれは友情どころか嫉妬・劣等感・屈辱感といった生々しい真っ黒な感情だったのです」
麗奈「久美子はみぞれのことは好きか聞きます。その答えは「嫌いではない」です。その後、希美はあのみぞれの演奏をサポートできるよう全力で努めると言ってなんとか自身を奮い立たせ、去っていきます。久美子はまたなにもできませんでした」
麗奈「そしてコンクール直前、みぞれ(オーボエ)が希美(フルート)に直接尋ねます。音大には行かないのかと。希美は肯定し、みぞれは「いつも勝手だ」と愚痴をこぼします。しかし、希美を抱きしめながら「希美が幸せならそれでいい。なにもなかった私に音楽をくれてありがとう。友達になってくれてありがとう。希美のこと、大好き」と感謝を伝えます」
麗奈「希美はこう返します。「ありがとう……私もみぞれのオーボエ大好き」みぞれが正直な気持ちを打ち明けたのに対し、希美は最後までそれができませんでした。そしてみぞれも「希美のフルートが好き」とは言わず、希美も「みぞれが好き」とは言いません」
麗奈「このように、二人の残酷なすれ違いは解決せずに終わるのです。一応みぞれは希美への依存から脱却でき、自立に至るなど(一人だけ音大進学します)ネガティヴな結末ではありませんが、希美の内に秘めた仄暗い感情は果たして自己解決できたかはわかりません。これは『2』の後日談である外伝作品『飛び立つ君の背を見上げる』でも曖昧です。以上、愛でも友情でもない異形のなにかで繋がる二人の正反対の人間のお話でした」
恵「ちなみにみぞれ(オーボエ)に音大進学を勧めた新山先生(既婚者)の専門はフルートです。希美……なんとまぁ」
英梨々「さらに、二人の対比はオッペンハイマー視点がカラー、ストローズ視点がモノクロといった形でも表現されています。モノクロの映像 ※1 を織り交ぜるのは言わずもがな『メメント』でなされた映像表現ですが、時系列前半をモノクロ、後半をカラーとしていた『メメント』に対し、本作は人物で振り分けています。そのため、同様の見方をしていると中盤で一つのシーンで両方の描き方が出てきて少々困惑します」
詩羽「ではこの年のコンクール結果はどうだったかというと、まさかの関西大会ダメ金。つまり昨年と異なり全国にも行けずに終わってしまいました 。本番にてみぞれと希美が奏でた『リズと青い鳥』は本当に素晴らしいものでしたが、この年は周りも優秀でした。明らかに関西における吹奏楽部全体のレベルが飛躍的に向上していました。また、今年の北宇治は妥協が多いと高坂麗奈が指摘していたように、部員たちも全国に行けるのはどこか前提のように感じていたのも要因ではと部長である吉川優子(リボン)はのちに語ります ※2」
恵「※1:世界初となるモノクロのIMAXは凄まじい美しさです。今作のためだけに独自で開発されたフォーマットで、フィルムを特注し、カメラを専用に改造し、現像のための薬品を新たに開発した上でようやく実現できたそうです。※2:メタ的なことを言うと、来年のことを踏まえたバランス調整ですね。三年連続全国で、銅→銀→金では面白くありませんから」
英梨々「なお一応、本作の見方は序盤で提示されていますが、非常に気づき辛いものとなっています。『ダンケルク』の冒頭で陸・海・空の映像にそれぞれテロップが挿入されるのと同じく、初めに映されるオッペンハイマーの正面ショットにテロップで 【1. Fission】、同じく初めに映されるストローズのショットに 【2. Fusion】と挿入されます」
詩羽「『2』と『3』の間を補完する『アンサンブルコンテスト』では、個々の力を底上げするため、部員全員でそれぞれグループを組んでアンサンブルコンテストに出る話が描かれます。この過程で久美子は当然ながら高坂麗奈と組むことになるわけですが、このとき麗奈が久美子を誘います」
英梨々「これは原爆を開発したオッペンハイマーをFission、つまり核分裂とリンクさせ、水爆開発を推進したストローズをFusion、つまり核融合とリンクさせ、二人の人物・二つの核爆弾の二極関係を強調しています ※3」
詩羽「この場面は麗奈のいじらしい側面が露呈するいい話なのですが(ユーフォが一番上手い久美子を最初から誘いたいと思っていたけど断られたらと思うとなかなか誘えなかったらしい。かわいい)、久美子はそのことに感激する一方でもし自分よりもユーフォの上手い人間が入ってきたら麗奈はどうするのかという疑念を少しだけ抱きます。そしてそれが実現してしまうのが、今作『響け!ユーフォニアム3』です。ようやく本題ですね」
恵「※3:補足としてざっくり説明すると、原爆はウラン等の核分裂反応を利用した兵器で、水爆は重水素等の核融合反応を利用した兵器なので同じ核兵器でもメカニズムは異なります。まぁ現状、重水素の核融合反応を引き起こすためにはウランの核分裂反応が必要なため、水爆の内部にも原爆が仕込まれているのですが」
英梨々「では続いて、この映画のクライマックスについてです。原爆の爆発シーンをCGなしで描くということで、モノホンを使ったのではと一時期話題になりましたが、もちろんすべてリアルな爆発のみ(ガソリンとアルミニウムの粉末のようです)で再現しています(図-1)」
詩羽「前述したように久美子は北宇治吹奏楽部の部長に就任します。このとき、副部長は久美子の元カレである塚本秀一、新役職として誕生したドラムメジャーは高坂麗奈となります。紛うことなき黄前久美子政権樹立ですね。ここで一度、久美子と秀一の関係について別途で整理します」
久美子「黄前久美子です。幼馴染である二人ですが、まず一年時に秀一が久美子の誕生日にヘアピン ※4(図-2)をプレゼントします。もちろんそういう意味を含んでいますが、このときはあすかに邪魔され本心は伝えられませんでした。しかしその年明け、久美子がお礼の品を秀一に渡した際、秀一は思い切って久美子に告白します」
久美子「それを受けた久美子はというと、顔を覆ってしゃがみ込んでしまいます。ですがその後、秀一の耳元に口を寄せると「私も、秀一のこと好きだよ」と囁きます。アニメではかなりドライな態度を見せる久美子でしたが、原作では結構がっつり秀一のことが好きです。そして初心です。流れで秀一にキスされかけたときには、動揺しながら「キ、キスとかそういう恥ずかしいのは禁止」と突き返すくらいですから」
久美子「そして二年生の後半、久美子が部長に指名されると、じぶん不器用ですからと言って秀一に頭を下げながら、ヘアピンを返します。つまり、恋人関係の解消を求めました。そして、「もし一年後も自分のことがまだ好きだったらもう一度渡してほしい」と言います。けっこう勝手な女ですが、それだけ部活に真剣だったということです。しかし直後、優子(前部長)と夏紀(前副部長)とあすか(前々副部長)の采配で秀一が副部長に任命されてしまい、久美子は目眩を覚えることになります」
久美子「これだけ聞くと久美子への嫌がらせとして配置したように見えますが、実のところ秀一は、久美子のサポート役としてはちょうどいい人材でした。それがわかるのが関西大会敗北が決まったときのことです。当時、隣で麗奈が涙を流す一方で久美子はなぜか泣くことができませんでした」
久美子「しかし数日後、あの日気丈に振る舞って部員たちを奮い立たせていた優子部長も実は裏で泣いていたという話を秀一から聞いた瞬間、久美子は一気に感情の蓋が開いてしまいます。「優子先輩も、夏紀先輩も、希美先輩も、みぞれ先輩も、みんな頑張っていたのに、どうして私たちの頑張りは報われなかったの?」先輩たちの多くの出来事に関わってきた久美子らしい嘆きです」
久美子「そして秀一は大泣きする久美子を励まします。このことから、秀一は久美子が素をさらけ出せる存在であることがはっきりと窺えます。そしてこのような、恋人同士でなくとも同じ志を宿した気の許せる相手がそばにいる状態で、久美子の最後の一年間が始まります」
恵「※4:ヘアピンにはイタリアンホワイトという花があしらわれており、他にも様々な場面でこの花は登場しています。花言葉は「あなたを想い続けます」だそうです。へっへっへ」
英梨々「しかし驚くべきことに、核爆発のシーンはこの映画最大の山場ではありません。過去にマンハッタン計画を描いた映画で『シャドー・メーカーズ(1989)』という非常に出来の良い作品がありますが、オッペンハイマーではなく原爆開発が主題であったため、やはりトリニティ実験が成功するシーンがこの映画ではクライマックスになっています。では『オッペンハイマー』は爆発以外でどのように話を締めたのか。ここに監督の才覚が凝縮されています」
詩羽「では本編です。新学期が始まってすぐ、久美子にとって最大の脅威となる人物がやってきます。それは吹奏楽コンクール常連校である清良女子からの転入生、黒江真由です。彼女の最大の特徴は久美子と同等かあるいはそれ以上にユーフォが上手いということ。そして、今年の自由曲は『リズと青い鳥』に似てトランペットとユーフォのソロ同士の掛け合い(ソリ)が存在し、オーディションも計三回(大会ごとに)行われます。完璧に舞台が整っていますね。そうです。これまでストレートに突破していたオーディションという壁に黄前久美子は激しくぶつかることになるのです」
英梨々「それではトリニティ実験後どのような展開になるのか。作中小刻みに挿入されていた二つの聴聞会がそれぞれ佳境を迎えます。まずは【オッペンハイマーの聴聞会】です。これまで関わってきた人物らが一人ずつ、オッペンハイマーの人物像について証言を行なっていきます。このとき、それぞれの立場が明確になっていくところに絶妙な緊張感があります」
詩羽「一つ下の後輩である久石奏ももちろん優秀なユーフォ奏者ですが、久美子の脅威にはなりません。なぜなら久美子と同じ【努力側の人間】だからです。この『響け!ユーフォニアム』という作品は【努力側の人間】と【才能側の人間】のぶつかり合いがテーマでもあると思います。例えば高坂麗奈、田中あすか、鎧塚みぞれ、川島緑輝などは【才能側の人間】です」
英梨々「例えば、科学者でありオッペンハイマーと古くからの友人であるイジドール・ラビは、「オッペンハイマーは誠実な人物であり、アメリカと彼が属する機関に忠誠を誓っています」と証言します。この人物は当初から核爆弾の開発に対して疑問を呈するなど、常にオッペンハイマーを倫理的に導こうとします。そのため最初から最後まで親身になって支えてくれます」
詩羽「一年時はトランペットソロのゴタゴタでブチギレる高坂麗奈やそういったゴタゴタに無関心で気ままに楽器を吹くあすかなど、才能側の姿が印象的に描かれました。二年時は逆に、努力という行為の意味を問う奏や才能のある人間に嫉妬し苦悶する希美など、努力側の姿が強調されました」
英梨々「対して、マンハッタン計画時から水爆開発を主張し、これまでにもたびたびオッペンハイマーと衝突していた同僚の科学者エドワード・テラーは、オッペンハイマー博士はアメリカの安全保障上のリスクであるかと思うかと問われた際にこう答えます。「博士が非常に理解し難い行動をとる場面を多く見ました。私はこの国の極めて重要な利益を、より信頼できる手に委ねたいと思っています」つまり、オッペンハイマーと対立する立場を選択したのです」
詩羽「そして三年時、ついに久美子もその土俵に立ち、麗奈やあすかのようなバケモノ連中の一人である黒江真由と闘うことになります。ですが、久美子にとってその闘いは非常にしんどいものになります。それは久美子が部長という立場であり、多くの友人・後輩たちが久美子にソロを期待するためです。かつて奏が夏紀に放った「みんなあなたに選抜入りして欲しいと思っている。でもあなたにはそれに応えるだけの実力がない」という言葉がここにきて自身へのプレッシャーになります」
英梨々「マンハッタン計画を主導した陸軍工兵隊の将軍レスリー・グローヴスは、現在のガイドラインと照らし合わせたとき、あなたはオッペンハイマーに政府の機密情報アクセス資格(セキュリティ・クリアランス)を与えますかと問われ、思い詰めた表情でこう答えます。「わたしは彼にクリアランスを与えません。しかし、誰にも与えることはないと考えます」つまり、オッペンハイマーの肩を持つ選択を行います」
詩羽「そしてなにより、当たり前のように高坂麗奈が片方のソロをつとめるため、当然ながら久美子自身も麗奈とのソリを切望します(なんなら麗奈から「私は久美子と吹くつもりでいるから」と言われます)。つまり、部長として北宇治を全国に導くという使命と、どうしてもソロに選ばれたいし選ばれなければならないという個人的事情の二つを同時に抱えることになります」
英梨々「原子力合同員会の元事務局長ウィリアム・ボーデンという人物もオッペンハイマーにとって不利な証言をします。そもそもこの聴聞会が開かれるきっかけとなったのは、オッペンハイマーはソ連と内通しているという告発文がFBIに送られたためでした。そして、その告発文を送ったのはボーデンです」
詩羽「さらに黒江真由という存在は、その性格と発言によっても、久美子をひどく懊悩させることになりました。真由は基本、物腰が柔らかく朗らかで友好的です。誰に対しても優しく丁寧に接し、とにかくみんなと(特に久美子と)仲良くなりたがります」
英梨々「しかしここで、ボーデンに告発文を送らせたのがもう一人の主人公であるストローズであったという衝撃の事実が判明します」
詩羽「しかし、みんなの写真を撮るのは好きだけどそこに自分が写るのは好きじゃないという意味深な発言をしたり、『リズと青い鳥』の話を持ち出してどうして一つの物事に執着するんだろうと疑問を呈したりします。さらには、北宇治の実力至上主義とは正反対のみんなで合奏するのが大好きという精神です」
英梨々「二人の関係が悪化し始めたのは、AECにてアイソトープの国外輸出に関する議論をしていたときのことです。意見を求められたオッペンハイマーは軽い気持ちでストローズを揶揄ってしまいます(アイソトープは核兵器製造に寄与する可能性があるとして輸出反対を主張するストローズに「核兵器製造にはシャベルだって使えます。ビール瓶だって。アイソトープは電子部品ほど役に立ちませんが、サンドイッチよりは役に立つと言えます」と公然と言い放ち、場内は笑いに包まれます)」
詩羽「これが言ってしまえば非常に面倒で、いかんせん実力があり自身もそれを自覚しているため、久美子に通算百回くらい「オーディション辞退しようか?」と尋ねてきます。なにより厄介なのはこれが本心からということです。そのため奏に至っては最初から最後まで警戒心MAXです」
英梨々「それ以前にも、初対面にもかかわらずオッペンハイマーがストローズに対してチクチク言葉を使用したりする(ストローズの職歴を聞いて「卑しい靴売りだったんですね」と言ってしまう)などありましたが、今回に関しては公衆の面前で鼻をへし折られたわけです。そのため、プライドの高いストローズはこれを強く根に持ちます」
詩羽「またもう一つ、久美子や奏を大きく振り回す要素があり、それが無自覚にちょいちょいチクチク言葉を挟んでくることです。オーディション結果発表後に「久美子ちゃんと私で終わりかなって予想してたんだけど、奏ちゃんも受かってよかったね」と奏に直接言ってきたりと、かなり空気の読めない言動が要所要所で挟まれます。ちなみに緑輝(コントラバス)は、かなり早い段階で真由の人間性をクラゲに喩えるなどしています。詰まるところ黒江真由は、周囲と向いている方向の異なる人間で、そしてどこまでいっても裏表のない正直な人間なわけです。ちなみにアニメ版は少しマイルドなキャラになってますね。原作はもっと宇宙人です」
英梨々「そして断裂が決定的になったのは、オッペンハイマーが明確に水爆開発に反対するようになり、さらには世界各国は核兵器の廃棄に同意すべきだという持論を展開するようになったためです。ストローズは政府内でも主流の水爆推進派でした。そのため、ソ連が原爆実験に成功したことが判明した際は、二人の意見は正面衝突しました(水爆開発は軍拡競争を煽るだけだと主張するオッペンハイマーに対し、ストローズは相手よりも先に作らなければ抑止力にならないと主張)」
詩羽「そんな真由と、久美子が上手な折り合いつけられずにいるただなか、部内ではいくつかの問題が発生します。初めは高坂麗奈の厳しすぎる指導でした。「いつまでも初心者気分でいられると困るんだけど(標準語訳)。ちゃんとやって(原文ママ)」と、初心者だろうがなんだろうがとにかく全員に高いクオリティを求めるため、後輩が死にかけているというもの。さらに辞める人間が出るかもしれないという話まで表出します」
英梨々「これらのことからストローズはオッペンハイマーに対して苛烈な執着心を抱きます。そしてついに、彼が国家安全保障の問題に二度と口出しできないようにするために動きます。周囲に根回しを行い、証拠を提示する必要のない聴聞会という場をセッティングします(このとき、弁護士には国家機密という理由で十分な資料を与えません)」
詩羽「久美子は後輩のフォローに翻弄し(「まぁ頑張って」と声をかけてまわります)、なんとか無事にオーディション一回目が終了します。久美子もソロに選ばれ面目は保たれることに。ここで、滝先生への絶対的な信頼感があるのは三年生だけであるという事実なども露呈したりしますが、京都府大会(コンクール一段階目)では金賞を獲得し、ひとまず関西大会への切符を手に入れます。ここまでが上下巻のうちの上巻の内容です」
英梨々「そしてオッペンハイマーの妻キティも証言を行います。キティには過去三度の結婚歴があり、オッペンハイマーは四人目の夫でした。しかし夫が国家プロジェクトに関わっているせいでなかなか自宅に帰らないことからアルコール依存症になり、子育ては友人夫婦に任せることになるなど、母親としては足りない部分がありました。しかし、夫に対しては誠実で真摯に向き合います」
詩羽「続いて下巻です。二回目のオーディションが実施され、久美子がソリストから落とされます。もちろんそこに収まったのは真由です。奏に至っては選抜落ちです。部内に波乱が巻き起こります。一番の争点はもちろん久美子のソロ落ちです。奏や緑輝は、久美子も真由も実力は互角であとは好みの問題なんだから久美子をソリストにした方が部のまとまりがよくなるだろうと持論を語ります。後輩たちの間でも諸々の不満が頻出しますが、最も大きな問題はそれによって高坂麗奈の機嫌がどんどん悪くなっていくことです」
英梨々「例えば、女癖の悪いオッペンハイマーは、元カノであるジーン・タトロックとの不倫を続けていましたが、そのジーンが中盤自殺します。このときすでにマンハッタン計画に着手していたにもかかわらず、共産党員であるジーンと密会していたわけですが(そのため他殺説もあります。映画ではこの不自然な死を描くために検死報告書を取り寄せたのだとか)、このことを知ったオッペンハイマーはひどく動揺し精神衰弱に陥ります」
詩羽「あるとき、久美子は麗奈から「滝先生がおかしいと思う?」と問われます。その少し前、久美子は奏と今回のオーディション結果について議論していました。奏は自身が落ちたのはさもありなんと語る一方で、今年の滝先生は音楽の方向性にブレがあるとも言います。コンクール受けの音楽にだんだん寄りつつあるように感じると。そうしたこともあって久美子は麗奈の問いに即答することができませんでした」
英梨々「するとキティは胸ぐらを掴みながら「周りに同情なんて求めるな。あなたがしっかりしなくてどうする」と夫の不倫に傷心しながらも叱咤します。さらに、聴聞では当然ジーンとの関係にも触れられるため、夫婦生活が公に晒され資料として残されることに深く傷つきますが、一方で、激しい闘志を燃やします。そのため夫のために証言することを決意し、検事と真っ向から闘います」
詩羽「結果、麗奈はキツい言葉で暴論をぶつけ(努力が足りないから結果が出なくて不満を抱いているだけ)、久美子も負けじと応戦します(自分の当たり前を周りに求めるのは覇道だ)。最終的に久美子は「全面的に信じることはできない」と言ってしまい、麗奈は「だったら部長失格ね」と呟いて立ち去ります。この少し前に互いの水着のボトムを交換し合ってプールに行く(図-3)なんてこともしていたため、この袂を分つ場面は悲愴が余計に強調されます」
久美子「一応過去に、滝先生が既婚者であった事実を麗奈に隠していたらバレて、「なんで私が怒ってるかわかる?」と久美子が詰められるという熟年離婚の危機に直面した夫婦さながらの展開になったことはありましたが、今回は麗奈が音大に受かっていたことを久美子は知らずショックを受けることになるなど、かなり大規模なスケールの大仲違いです」
英梨々「このとき両者の間で交わされる応酬は見事です。共産党員であった過去と党員証を返還していないことを検事に追及されますが、毅然とした態度で「私が党員だった頃はソ連の共産主義と共産主義は明確に異なるものだと思っていた。でも、今はそうは思わない。そして夫が共産主義思想に知的関心を抱いていたことは知っているが、共産党そのものとはなんの関係もなかった」と一貫した主張に徹するのです。結果、やり手の検事から一本取ります(知的な共産主義者と普通の共産主義者がいるのかという質問に、そんなもの答えられないと笑いながら回答し周囲から同意を得ます)」
詩羽「こうして二人は仲違いした状態のまま、関西大会当日を迎えます。ちなみにソロ落ちしてからこの日に至るまで、久美子は後輩たちから「私は先輩の味方です」「応援してますから!」と節々で声をかけられ、さらには練習から本番に至るまで何度も目の前で麗奈と真由の完璧な掛け合いを聞かされることなるため、この辺りはシリーズ通して一番の地獄が描かれます。そんな苦行に久美子が耐えた成果なのか、北宇治は関西大会(コンクール二段階目)を突破します」
英梨々「そしてついにオッペンハイマーも詰問されます。検事から次々とぶつけられる質問は実に鋭く、容赦のないものです。「あなたは日本への原爆投下に関して標的の選定に関わりましたよね? あなたが選んだ標的に投下されることで、数十万もの民間人が死傷することになるだろうと知っていましたよね、違いますか? もし日本に充分大きな標的があったとしたら、熱核兵器(水爆)を落とすことに反対しましたか? あなたは広島への原爆投下に道徳的ためらいから反対しましたか? ソ連の核実験後にあなたが共著した報告書では、核爆弾は決して作られるべきではないと言いました。ではソ連は軍事力増強にあたって何もしないと!」というように」
詩羽「すると、やってくるのは三回目のオーディションです。真由は言います。「今度のオーディション、私はソリを辞退した方がいいんじゃないかなって」久美子は気が狂いそうになります。そしてなんとか言葉を紡いで説得を行いますが、久美子は勘違いをしていると言われてしまいます。「私にとってコンクールは、吹奏楽部で過ごす時間についてくるおまけみたいなものなの。全国で金だろうが銅だろうが、友達と一緒にいられるならそれでいいの。逆に久美子ちゃんの本音はどうなの? 私がソロを吹くのは嫌じゃなかった? 私の久美子ちゃんを応援したい気持ちは無視されちゃうの?」ここで初めて久美子は、自身の説得が失敗に終わる経験(希美・みぞれを除く)をします」
英梨々「つまるところ、水爆開発に反対するのはソ連に肩入れしているからじゃないかという趣旨です。オッペンハイマーにも曖昧な表現を用いる場面が多々あり、本音を引き出そうと検事の口調は次第に過激になっていきます。そして二人の応酬が最高潮に達したとき、オッペンハイマーは声を張ります。「もしわれわれが水爆を作れば、彼らもそうしなければならないでしょう! 原爆のときと同じように、我々の努力は彼らの努力を刺激するだけでしょう!」と」
詩羽「その後、裏で話を聞いていた奏に、だから忠告したのにと呆れられます。加えて、ついに奏は真由への感情を久美子に打ち明けます。「黒江先輩のあの態度は久美子先輩への侮辱です。あの人は北宇治を愚弄してるんです!」涙ながらに声を張るその姿に、ようやく久美子は奏の本心を知ります。一年前、自分を救ってくれた夏紀と久美子のことを奏は本気で敬愛していました。だからこそ、真由の言動はそんな二人の想いを踏み躙るものだと解釈していたわけです。しかし奏は「今回ばかりは(超大)好きな先輩が渦中の人物のため、先輩がソロをつとめるべきじゃないかという自分の主張は理性的なものか感情的なものかわからない」とも言います。聡明な奏が珍しく答えを出せないでいることが露呈するシーンです」
英梨々「これに対して検事は問います。「原爆のときと同じように! まさにそれだ! 45年には道徳的ためらいはなかったが、49年には多大にあった。オッペンハイマー博士、あなたの中に水爆に関して強い道徳的信念が生まれたのはいつですか?」見事なまでに芯をくった質問です。短い沈黙の後、オッペンハイマーは静かに言います。「……われわれは、所持する武器はなんでも使うことがわかったときだ」これが本作におけるクライマックスです」
詩羽「互いに結論を出せないでいると、そこへさらなる問題が降りかかります。それは滝先生の悪口を言っている部員がいないか見回り、見つけたら呼び出して叱りつけるという高坂麗奈の秘密警察ぶりの行動です。そんな奇行を目撃した秀一がお前は何をやってるんだと麗奈を咎め、二人の口論はヒートアップしていきます。久美子は仲介に入りますが、どちらも譲らない舌戦に為す術はなく(なんなら「すぐそうやって久美子は綺麗事で片付けようとする」(feat. 麗奈)とまで言われてしまいます)、以前麗奈が口にした久美子への部長失格発言も掘り起こされ、結果、秀一は麗奈にドン引きします。こうして盤石だったはずの政権はものの見事に瓦解し、久美子は途方に暮れることに」
英梨々「この結果、オッペンハイマーがソ連のスパイであるという容疑は晴れます。しかし、セキュリティ・クリアランスの更新は拒否、すなわち事実上の失職処分となります。さらにはFBIの監視下に置かれることとなり、ストローズの謀略が成功する形で聴聞会は終わります」
詩羽「そんなとき、あすかが去年の関西大会の際にくれた絵葉書の存在を思い出します。「困ったら一度だけ助けてあげる」という当時の文言を信じ、久美子は絵葉書に書かれた住所のもとに向かいます。すると、あすかとルームシェアをしている中世古香織が出迎えてくれました」
英梨々「一方ストローズですが、控え室にてオッペンハイマーを殉教者にした手筈を上院補佐官に嬉々として語ります。「素人は太陽を求めて喰われ、権力は陰に残るのだ」というセリフが印象的です」
詩羽「久美子をもてなす香織は麗奈との近況を聞く過程でこんなことを言います。「私はきっとすべての人間が特別なんだろうなって思うの。黄前さんにとっての麗奈ちゃんも、麗奈ちゃんにとっての黄前さんも。誰かは誰かにとって特別なんだよ」この言葉は後に久美子にとってとても重要になってきます」
英梨々「しかし、ある科学者がストローズについて重要な証言を行ったことで、風向きが変わります。その証言とはなんとストローズがオッペンハイマーの聴聞会を手引きした、そしてその動機は個人的復讐であるというもの。つまり、オッペンハイマーに行った仕打ちをすべて暴露されてしまいます。それも皮肉にも、【オッペンハイマーの聴聞会】と同じく証拠を提示する必要のない場で」
詩羽「そしてあすかが合流し、久美子はさっそく自身の悩みを打ち明けます。すると、あっさりと問題の本質を教えてくれました。あすかが久美子に伝えたことは主に次の二点です。「滝先生も人間なんだから迷うよ。それでも私たちを確実に成長させてくれたのはあの人が努力しているから」そして真由との関係については「向こうも向こうだけど久美子も久美子じゃない? 結局久美子がどうしたいかでしょ? ちゃんと自分の気持ちを伝えてないんじゃない?」あすかの助言は久美子の背中を勢いよく押してくれることに」
久美子「しかし外に出ると、一気にまた不安な気持ちが襲ってきます。部長や最高学年という単語が脳裏にチラつくなか帰路を進んでいると、そこに秀一が現れます。久美子のことを心配していた秀一は、マンションで待っていてくれたのです。そしてしょげている久美子に、頑張りすぎなくていいぞと伝えます。俺は副部長だから支えてやると。これを受けた久美子は思います。やっぱり、秀一のことが好き。結局、最後の最後に久美子を救ったのは秀一でした。そして今度こそ久美子は前に踏み出します」
英梨々「控え室に戻ったストローズは激昂します。そして上院補佐官に向かって、この場にいないオッペンハイマーへの恨み節をぶつけます。「あいつは原爆を所有したがった。地球を揺るがす存在になりたがった。わたしはオッペンハイマーという男をよく知っている。もしすべてをやり直せたとしても、あいつはすべて同じことをするだろう! あいつは一度も広島を後悔していると口にしていないのだから!」補佐官は黙って聞いています」
詩羽「そしていよいよこの物語のクライマックスがやってきます。まずは麗奈との仲直りです。早朝、駅前で麗奈を待ち伏せると、久美子はいきなり[大好きのハグ]を強要します。公共の場で。当初は超絶ヒく麗奈でしたが、「え、だって麗奈わたしのこと好きじゃん」と直球で指摘されると全力で久美子の胸に飛び込みます。公共の場で。そして互いの好きなところを囁き合います。公共の場で」
英梨々「さらにストローズはこうも言います。「あいつは輝かしくも偽りに満ちた罪悪感を王冠のようにかぶりたがった。私はやつがまさしく望んでいたものを与えてやったのだ。広島でもない! 長崎でもない! トリニティが記憶されるように。やつは私に感謝すべきだ」これにはさすがの補佐官もそんなわけないだろうと返します」
詩羽「そして久美子ははっきりと告げます。「麗奈は私にとって特別な存在。そして滝先生は完璧じゃない。だからこそ、ついていくべきだと思った」これに対し麗奈もマジごめんと詫びを入れて一件落着と相成ります。公共の場で」
英梨々「それでは肝心のストローズの商務長官承認の結果ですが、反対署名を行った議員が賛成を上回り、ストローズは昇進の道を絶たれます(内閣からの指名が承認されなかった人物は実に34年ぶりです)。これがもう一つのクライマックスです。このようにオッペンハイマーとストローズの対立は時を経て相打ちで終わるのです」
詩羽「とにかくベッタベタな仲直りですが(二つの意味で)、このときの久美子の「麗奈とは親友だから言わなくても伝わるって思ってた。でも違った。好きなら好きってちゃんと言わなきゃって」と言って麗奈の好きなところを述べるくだりは、高校一年時に大吉山で麗奈が伝えた「久美子の性格悪いところが好き」という愛の告白へのアンサーのようにも感じられます」
英梨々「最後に本作最大の見どころについてです。これまで記述した要素だけでも充分に魅力的な作品として出来上がっていますが、最後の最後にこの作品をさらにもう一段上の次元に引き上げる演出が用意されています」
詩羽「続いては真由との決着です。ここが本作最大の見どころです。ついに久美子は真由に対する感情を自覚します。その感情とは恐怖でした。久美子がユーフォを頑張る動機は、もちろん全国金賞のためでもありますが、一番はやはり、どこまでも飛躍する親友・高坂麗奈と対等になるためです。そのため、真由が現れたことでその場所が奪われてしまうのではと恐れ、そしてその恐れている事実からずっと目を逸らしていたのです」
英梨々「戦前から戦後に至るまで、オッペンハイマーはアインシュタインと何度も科学に対する意見交換を行っていました。その中でも重要なシーンが二つあり、一つはトリニティ実験前、核分裂反応の計算式に関してオッペンハイマーがアインシュタインに検算を行ってもらおうと彼のもとを訪ねるシーンです」
詩羽「確かに真由には少々社会性が足りない部分がありましたが、久美子も理由なく真由を忌避する場面が多々ありました。例えば、真由からあがた祭りに誘われた際は麗奈と行くから(この時点では嘘)と言ったり、あすかから授かった曲を吹いてる最中「それってなんの曲なの?」と聞かれて「なんでもない」と答えるなど、向こうから踏み込まれると後退りする言動を繰り返します」
英梨々「実はこのとき、核開発に着手する科学者たちの間にはある懸念がありました。それは核分裂を起こすとその連鎖反応は一定範囲に留まらず、大気にまで及んでしまうのではないか、すなわち、一度原爆を起爆すれば全世界が炎に包まれるのではないかという恐ろしいもの。オッペンハイマーはその懸念をアインシュタインに告げ、それが起きる確率がゼロであることを確かめて貰おうとしたわけです。しかし、これは私ではなく君たちの問題だと一蹴されてしまいます」
詩羽「久美子は自分でもそれらの行動の理由がわかっていませんでしたが、真由と正面から向き合うことを決意したことでようやくその正体を掴みました。そしてここで、香織の「誰かは誰かにとって特別」という言葉が真由への恐怖心を乗り越えさせます。久美子は香織の言葉から、誰かが誰かの場所を奪うなんてことなんてできないのだと悟り、であるなら、高坂麗奈の隣という場所は久美子だけのものであり、真由を恐れる必要なんてないと思えるようになります」
英梨々「もう一つのシーンは、こちらの方がより重要で、終戦後にプリンストン高等研究所の湖畔にて再会するシーンです。このシーンは序盤と終盤に二回描かれ、それらはコインの表面と裏面のような関係になっています。一度目の描かれ方ですが、これはストローズの視点です。ストローズはオッペンハイマーを同研究所の所長に任命し、初めて二人が握手を交わしたその日、すでに所員として働いていたアインシュタインの姿が二人の目に留まります」
詩羽「そして最後のオーディションが行われる直前、久美子は部員全員を集めて檄を飛ばします。これが名演説です。久美子が語ったのは次のようなもの。「みんなに頑張ってほしいと思うのは、私の勝手な希望かもしれない。でも自分が身を引いた方がみんなのためになるなんて考え方は私は嫌です。部活のためとか、誰かのためとか、そんなのは知らない。たとえオーディションで悔しい思いをしたとしても、その悔しさはその子のもので、誰かにそれを奪う権利なんてない。失敗だって自分で掴みとった一つの成果だ。努力は周りのためじゃなく、自分のためにするもの。私はみんなに後悔のない選択をしてほしい。この北宇治なら、全力を出せば絶対にいい結果が待ってると私は信じてる」去年の優子(リボン)とは違い、これまでなかなか全員の前では流暢に話せなかった久美子ですが、ここでようやく部長然とした態度を示しました」
英梨々「彼とは旧知の仲だと言うオッペンハイマーは湖畔に佇むアインシュタインのもとへ歩み寄ります。そして二人は短い会話をしたのち、アインシュタインだけがその場を去ります。このとき、ストローズが声をかけても無視をしてしまうくらいにはアインシュタインは思い詰めたような表情でした。ストローズは離れた場所にいたので二人の間でどのような会話が交わされたのか分かりません。これは観客も同じです」
詩羽「そしてこの言葉は、全員を鼓舞しながらも、実質一人の人間に向けられています。当然ながら、それは真由です。彼女の心に刺さらなくてもいいからとにかく感情をぶつけたい。そんな一心で久美子は、以前に真由から聞かれた「あなたの本音はどうなの?」という問いに全力で答えました。そして演説を受けて、オーディションに全力で挑んでくれた真由との最後の対決は果たして久美子の勝利で終わります。見事、全国大会における麗奈とのソリを掴みました」
英梨々「続いて、二度目の描かれ方です。自身のキャリアが絶たれたことを知ったストローズは上院補佐官に静かに言います。「オッペンハイマーは周りの科学者を抱き込んで一人ずつ私の敵に仕立ててきたのだ。一番初めはアインシュタインで、オッペンハイマーはあの日湖畔で彼になにか吹き込んだに違いない。だからあのとき私は無視されたのだ」と」
詩羽「続いてコンクール三日前、久美子がまた一人であすかから貰った曲を吹いていると、真由と奏が現れます。もう恐怖心のなくなった久美子は真由に曲名を教え(実際は奏が暴露する形でしたが)、「三人で一緒に吹こう」と誘います。そして、この曲を北宇治のユーフォパートのテーマ曲にしようよという真由の提案を久美子は受け入れます。つまり、あすかから久美子へ託された『響け!ユーフォニアム』(曲名)は、久美子から奏へ、そしてまだ見ぬ後輩たちへと託されることになりました」
英梨々「しかし、補佐官はこう返します。「それは断言できないでしょう? それよりもっと重要なことを話していたんじゃないですか?」こうしてストローズの視点は終わり、シームレスにオッペンハイマー視点での湖畔での会話へと移ります。一度目がモノクロであったのに対し今度はカラー、真実が明らかになります」
詩羽「コンクール二日前には麗奈の誘いで大吉山に登ることになります。そしてそこで、麗奈は久美子に「アメリカの音大に行く」と伝えます。当然動揺する久美子ですが、久美子といられる時間を大事にしたいという麗奈の想いを受け止め、二人でユーフォとトランペットのソリパートを吹きます。しかし久美子は途中で泣き出してしまい、麗奈も涙を湛えながら「気が早いんだから」と宥めます。中学三年時のコンクールで久美子の「本気で全国行けると思ってたの?」という一言から始まった二人の関係はこのようなところまで来ました」
英梨々「はじめにアインシュタインがこう忠告します。「君が以前わたしに賞をくれたように、いつか人々は君にメダルを授与するだろう。君の罪を許したと言って。だがそれは君のためじゃない、彼らが君に許してもらうため、彼ら自身のためだ」アインシュタインは以前からオッペンハイマーのことを気にかけていました。国に尽くしたのにその国とそして仲間に裏切られ、当の本人も科学が追うべき責任について苦悩していたためです。だからこそ、周囲が握手を求めてきた時には気をつけろと言ってくれたのです」
詩羽「そして迎えた黄前久美子最後のコンクールですが、結果は堂々の全国大会金賞です。ついに悲願を果たします。この際、目撃者の証言によると奏は真由と握手を交わしてらしく、奏の中でも折り合いがついた(ついたのかつけたのかはまだ不明です。今度の短編集の新刊で明かされるでしょう)ようです」
英梨々「これに対しオッペンハイマーは核分裂反応の計算式を持ってアインシュタインのもとを訪れたときのことを唐突に語り始めます。「あのとき我々は、世界を破壊するほどの連鎖反応を引き起こしてしまうのではないかと危惧していると言いましたよね?」さらに続けて言います。「その通りになりました(I believe we did.)」アインシュタインは愕然とすると、強張った面持ちでその場を去っていきます」
詩羽「ちなみに、亡き妻の願いでもあった全国金賞を勝ち取ったことで、あの滝先生が涙を見せたりもします(麗奈は大興奮です)。また、会場からの帰り際、久美子は」
久美子「秀一からヘアピンを受け取ります。つまり、あとはみなまで言わずともですね。へっへっへ」
英梨々「このとき、オッペンハイマーの発言がダブルミーニングになっているのが実に巧妙です。確かに物理的な現象としての地球規模の核の連鎖反応(大気への引火)は起きませんでした。しかし代わりに、各国が核開発競争に乗り出し世界全体が核の脅威に晒される道が拓かれました。つまり、世界を包むほどの核の連鎖反応は、比喩的には引き起こされてしまったと言えるわけです」
詩羽「さて、ここでプロローグの話をしたいと思います。この三年生編の上巻は滝先生の視点で始まります(初見は大半の人がそう思います)。そしてエピローグですが、これも先生の視点です。しかし、読み進めるとこちらは久美子であることがわかります」
英梨々「ちなみにマンハッタン計画には参加していなかったアインシュタインですが、戦前、ある科学者の依頼でルーズベルト宛の進言書を作成をしています。その進言とはアメリカも核開発研究を検討するべきだというもの。この書簡の存在もあって、マンハッタン計画はスタートします。つまり、アインシュタインもオッペンハイマーの功罪の一端に関わっていたとも捉えられ、それを踏まえると最後の表情はより意味深になります」
詩羽「実は部員たちに演説を行う直前、久美子は滝先生からどんな大人になりたいかと聞かれます。これまで久美子は自身の進路について、本当に死ぬほど悩んできました。これは上下巻通してずっとです。しかし、麗奈へ素直な想いを伝えたり、真由への感情を自覚したことで自分に正直になれた久美子ははっきりとこう答えます。「私は、滝先生みたいな人になりたいです」そうして最後、黄前久美子の物語は北宇治で吹奏楽部の副顧問を務める久美子の姿で終わるのです」
英梨々「そしてオッペンハイマーは、小雨が湖にいくつもの波紋をつくる様を眺めながら、核弾頭を積んだミサイルが地球のあちこちに同じように円状の波紋を作っていく様を幻視します。これが本作の終幕です。なおこのシーンは、劇中の時系列で言えばちょうど真ん中に位置しています。つまり時系列的には、ここまでにマンハッタン計画やトリニティ実験があり、ここをきっかけとして二人の男の対立が始まり、後に二つの聴聞会が展開されます」
詩羽「それを踏まえた上で冒頭に立ち返ってみましょう。実はこのエピローグとプロローグ、どちらも季節は春先で、どちらも桜の樹の描写が出てきます。しかし、物語の終盤になって初めて、桜の樹は久美子が卒業するタイミングで校庭に植えられたと判明します。したがって、冒頭の視点が滝先生だった場合、時系列が合いません。つまり、プロローグの人物も久美子であったわけです」
英梨々「このように、最後のアインシュタインとの会話は作中の三つの時間軸の結節点であり、その点の中心にオッペンハイマーの複雑な心境を表すなんとも言えない一言が配置されています。見事な構成です」
詩羽「このように本作には、読み返してみて初めてプロローグとエピローグが繋がっていたことがわかり、その瞬間、一から十まで黄前久美子の物語が描かれていたことが判明するという大胆な仕掛けが施されています。驚嘆です」
恵「加藤恵です。今回は、今年公開された映画『帰ってきた 冴えないトラペジウムの育て方 デデデデデッド・デッドレコニング PART ONE -1.0』を解説していこうと思います」
英梨々「以上、映画『オッペンハイマー』の解説でした。日本語字幕入りの円盤が販売されることを切に願っています」
詩羽「以上、テレビアニメ『響け!ユーフォニアム3』の解説でした。最後の全国大会のシーンは劇場版としてぜひ観たいなと思っています」
恵「ところでさっきのユーフォの画像、本当に黄前久美子の? 髪型がなんか違う気がするし、隣にいるのが久石奏だったら彼女のユーフォも金だよね。まぁ、そんなことより本編です。舞台『ドキュメント・ラストエンペラーNAGI』の冒頭は、主人公であるナギの独白によって始まります。「これは勝っただろと思っていました。出てきた当初は。尋常でなく顔が良くて絵が描ける。描けるといってもイラストではなくデッサンですから。大阪くんだりから出てきた頭まっさら女とは格が違うでしょう。しかし、今にすればそれは単なる小さな思い上がりでした。とても儚い。歯車が狂い始めた時期は明確です。予想外ともClear and Present Dangerとも思いませんでした。その時の感情を言葉にするなら「あぁ」といったところでしょうか。濁流に一切の私財を流されたときのような。ただ一瞬の諦観が私を包み、一人の人間の嘆きを語らせたのです。なんなんでしょうか。東京the Arts大学合格って。そのうえ足も細い。わたしの理解の埒外にあることです。たしかに当初から同質感は覚えていました。ですが奇妙な個体識別名に奇妙な語り口をもっていて、これが私よりも上方に位置するならば世も末と笑っていたのです。えぇほんとに。パソコンのパスワードを『LGBTQQIAAPPO2S』にしていたからでしょうか? 女の子のお財布にはお守りが入っていると暴露したからでしょうか? いいえ、違います。私は今日ようやく悟ったのですが、すべてにおいて大事なのはやっぱりアセンショ